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2016年11月

2016年11月30日 (水)

詭弁に始まり、誤魔化しで終わる

日銀は、前回の金融政策決定会合で、またもやインフレ目標達成を先送りし、インフレターゲット政策の成功を信じる者は、もはや(周回遅れのリフレ信者を除いて)誰もいない。

『日銀は金融政策の現状維持を決定。マイナス金利幅を-0.1%に維持。物価上昇率が2%程度に達する時期を2018年度頃として、達成時期を先送りした。』(ロイター 11月1日)

リフレ派が推進してきた金融緩和政策一本足打法は一敗地にまみれた。
黒田総裁、岩田副総裁ともに白旗を上げ投降寸前のありさまだが、この期に及んで、まだ、詭弁を吐き屁理屈をこねる論者も散見される。

最新のリフレ流詭弁術は、
①金融政策のおかげで給与やボーナスは上がっている
②インフレ目標は手段に過ぎない
③真の目的は「雇用改善」にある
にアップデートされたようだ。

先ず、①について、厚生労働省の9月の毎月勤労統計調査で、今夏の1人あたりのボーナスが前年比2.3%増え、実質賃金も前年同月比0.9%増えたこと、2016年の大卒初任給も203,400円で前年比0.7%増と3年連続増加したことを、何とか金融政策の効果に結び付けようと必死になっている。

だが、夏のボーナスの変動推移を長期で俯瞰すると、2001~2015年までの15年間のうち、対前年比でプラス化したのは、たったの5回だけで、残りの10年間はマイナスに終わっている。
しかも、プラス値の最大値は+2.7%でしかないのに、マイナス値の方は▲7.1%(2002年)、▲9.8%(2009年)にも達しており、単純計算すると、2000年に100あったボーナスが、2015年には81にまで激減した計算になる。

こんな惨状だから、今夏のボーナスがほんの少し上がったくらいで、人々の財布の紐が緩むはずがなく、10月の家計(二人以上)消費支出は1世帯当たり 281,961円と、前年同月比で実質0.4%減少 、名目0.2%減少(7か月連続減少)に終わっている。

大卒の初任給にしても、たったの20万円とは、1995~2000年頃の水準とほとんど同じで、0.7%増なら1,400円くらいでしかなく、ラーメン2杯食ったらなくなる程度でしかない。

何より問題なのは、ほんの僅かとはいえ、これらの収入増加を金融政策の手柄だと偽っていることだ。

帝国データバンクの「2016年度賃金動向に関する企業の意識調査」のよると、「賃金改善の意向がある」のと回答は46.3%と半数を切り、その理由も、「労働力確保」73.8%、「業績拡大」46.2%、「同業他社の動向」21.1%など、金融政策とは直接関係性の薄い項目が上位を占めている。

金融政策の成否と賃上げとの間に大した関係なんてないことくらい、企業経営者に直接尋ねてみれば、即座に判ることだ。

次に、②の「インフレ目標は手段に過ぎない」について、さすがに、インフレ目標の先送りが5回も続けば、物価上昇率2%という数値を目標化することに後ろめたさがあるのだろう。

しかし、目標未達が常態化しているにもかかわらず、彼らが、『インフレ目標は、「手段」であり、実際にインフレ目標を掲げている国で、その数値を達成できている国はない。目的ではないからだ。「目的を実現するための手段」なのだ』なんて幼稚なセリフを吐く様は、見るに堪えぬほど浅ましい。

リフレ派の連中は、最近でこそ、雇用増加など唯一良好な指標(量はともかく「質」は悪化しているのだが…)に寄生して、インタゲ政策の目的は「雇用」だ、と吠えている。

しかし、インタゲ政策を掲げた初期段階では、「マネタリーベース拡大→実質金利引下げ→予想インフレ率向上→インフレ期待醸成→投資・消費の活性化→デフレ脱却」という構図を盛んに喧伝し、雇用改善はその過程で具現化する(かもしれない)指標の一つでしかなかったはずだ。

彼らは、インフレ目標未達が続きリフレ派に対する批判が強まることに怯えて、雇用という良波に乗っかろうとしているだけだ。
仮に、雇用もパッとせず、ガソリン価格が下がっていたとしたら、「ガソリン価格の低下はインタゲ政策のおかげ」、「ガソリン価格の安定こそ真の目的だ」とほざいていたことだろう。

最後に、③の「真の目的は「雇用改善」にある」については、他の識者やブロガーも指摘しているが、昨今の雇用状況の改善(質ではなく量だけ、しかも、地域により差異が激しいが…)は、たまたま生産年齢人口の減少期と重なったこと、給料が増えず消費税や社会保険料負担の増加による家計の圧迫に苦しむ家計のパート労働が増えたこと、年金支給年齢引き上げにより再雇用を選択せざるを得ない高齢者が増えたことなどのネガティブ要因によるものであり、百歩譲ったとしても金融政策の効果など微塵の影響もない。

詭弁に始まり誤魔化しに終わるリフレ派の言い訳には、常に失笑を禁じ得ないが、何より愕然とさせられたのは、「貯蓄=投資。貯蓄された分は企業、政府、外国が消費するから何の問題もない」という寝言だ。

これは、「供給が需要を創る」という寝言以上にレベルの低い、まさに爆笑ものの戯言だろう。

「貯蓄=投資」なら、貯蓄(預金)はすべて融資や投資に回ることになり誰も苦労しない。
仮に、そのとおりなら、全国の銀行員や不動産屋は万々歳で、空前のバブル景気が再来しているはずだが、実態はご存じのとおりだ。

国内銀行の預貸差(預金-貸出)は直近9月で248兆円にもなり、黒田バズーカ最盛期の205兆円と比べて43兆円も拡大し、余剰貯蓄のブタ積みは増える一方だ。
本来なら、政府が国債発行量を増やして、預貸バランスの調整を図るべきだが、緊縮脳に憑りつかれた安倍政権は、歳出改革と称して積極的な財政政策から逃げ回っている。

貯蓄がすべて投資に回るなら、とっくの昔に金利が上昇していたはずだが、トランプ新大統領誕生のニュースに反応するまで、市場金利が低下しっぱなしだったことを、どう説明するつもりか?

旺盛な融資需要に押されて貯蓄が逼迫し、銀行員が須らく預金集めに奔走したのは、もう遠い昔のことだが、いまや、銀行にとって強制的な借入に相当する預金に対して、受入手数料の徴収が真剣に議論されるほど、銀行は預金の運用先に困り果てている。

貯蓄=投資なんて妄想は、古き良き昭和時代の発想であり、低金利競争に喘ぐ現代にはまったく通用しない。

時代錯誤も甚だしいリフレ派の連中は、脳幹を入れ替えて出直してはどうか。

2016年11月28日 (月)

TPPは中国包囲網(失笑)

TPPは中国包囲網だ」という妄言は、安倍信者の間に意外と根強く蔓延っている。

 

TPPは世界最先端の条約であり、今後の世界標準を先導する協定内容だ。特に知財管理が厳しいから、中国は逆立ちしても入れない”というのが中国包囲網論者の言い草だ。

 

そんな彼らの梯子を見事に外したのは、当の安倍ちゃん自身であり、下記の記事のとおり、中国のTPP加盟を大歓迎している。

 

『中国のTPP参加「歓迎」 答弁書で条件付き容認』(2016/11/4 日経新聞)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDE04H06_U6A101C1PP8000/

「政府は4日の持ち回り閣議で、環太平洋経済連携協定(TPP)を巡り、中国が協定の求める高い水準を満たす用意があることを示し、正式に参加表明すれば「歓迎したい」とする答弁書を決定した」

 

中国包囲網どころか、中国へ摺り寄る気満々だ。

 

そもそも、知財管理がいい加減なくらいでTPPに加盟できないと考えるのは、大甘のドシロウトでしかない。

 

TPP加盟国には、ベトナム、インドネシア、ペルー、メキシコといった“非法治国家”がゴロゴロあり、公務員の汚職や朝令暮改の法運用などといった問題が後を絶たない。

 

トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が1995年以来毎年公開している「腐敗認識指数」という、公務員と政治家がどの程度腐敗していると認識されるか、その度合を国際比較し、国別にランキングした調査がある。

 

この腐敗認識指数ランキングでは、ペルー88位、インドネシア88位、メキシコ95位、ベトナム112位(ちなみに日本は18位)であり、何と、知財管理がザルだらけの腐敗帝国「中国(83)」よりも、さらにランクが下という結果である。

 

オメデタイ中国包囲網論者の言い分が本当なら、ベトナムやメキシコのような如何わしい国はTPPに加盟できないはずだが?

 

東南アジア辺りの如何わしい国は、いかなる貿易協定で縛ろうとしても、現実には効力を発揮できそうにない。

なにせ、法律とか契約、協定のような約束事、信義則という概念すら存在しないから、律儀に法律や協定を守ろうとする日本企業が一方的にリスクを抱えることになるだろう。

 

『インドネシアの民事訴訟 その危険性と対応策』

(西村あさひ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 宇野 伸太郎)

http://judiciary.asahi.com/outlook/2016031500001.html

「インドネシアの裁判所には汚職が多いと言われている。2013年にはインドネシアの裁判官のトップである憲法裁判所長官(日本でいう最高裁判所長官に当たる)が収賄罪で訴追され、終身刑の判決を受けるなど、裁判官が収賄で逮捕されるというニュースは珍しくない。どの程度汚職が蔓延しているのか統計的なデータがあるわけではないが、インドネシアの弁護士に聞けば、「賄賂には請求金額に応じた相場がある」「訴訟の途中で裁判官が身につけているものが急に豪華になった」といった話がたくさん出てくる。

また、裁判所に汚職が蔓延しているということは、贈賄する側の弁護士も存在するわけであり、アメリカのFCPAなど外国公務員贈賄規制との関係でも、インドネシアで訴訟弁護士を起用する場合は、贈賄を行うような弁護士かどうかを事前にチェックすることが肝要である。」

 

役人どころか、裁判官トップが汚職で逮捕されるような非法治国家との完全なる自由貿易なんてあり得ない。

おまけに、味方であるはずの弁護士ですら汚職塗れという実態だから、クライアントを裏切る利益相反行為など朝飯前だろう。

 

東南アジアの賄賂文化は社会のあちこちに太く根を張っている。

 

『東南アジアのわいろ文化』

http://pinoyintern.hatenablog.com/entry/2015/10/15/101606

「ベトナム人実習生事業でも同じだ。推薦された候補者を採用しようとするとなぜか出国前の健康診断で引っかかることがある。送り出し機関に通常候補者が支払うべきわいろをわたしていないからだ。」

 

TPPを推進派の田舎者が、「アジアの内需を取り込むはずが、現地の盗人公務員に資産を取り込まれて敗走する」という失笑ものの未来予想図が目に浮かぶ。

 

2016年11月22日 (火)

詭弁は不要。実効性のある政策を出せ!!

11月15日の日経新聞朝刊経済欄の「経済観測」という記事に、内閣官房参与の浜田宏一氏のインタビューが掲載された。

記事のタイトルに「減税含む財政拡大必要」と銘打たれているように、黒田日銀総裁や岩田副総裁らとともにリフレ派の理論的支柱として大きな存在感を示していた浜田氏が、ようやくステージチェンジを果たしたようだ。

浜田氏の発言を素直に読めば、
・金融政策一本足打法ではデフレ脱却は不可能である
・マイナス金利政策は金融機関の収益を棄損させる
・デフレ脱却には(条件付きながらも)財政政策に頼らざるを得ない
・巷にはびこる政府債務問題が大げさな妄想にすぎない
・リカードの中立命題は現実には通用しないこと
などを認めた形となり、遅まきながら、これまでの構造改革臭の強すぎるリフレ政策の失敗に気付いたようだ。

しかし、子分のリフレ派の連中は黙っていない。
さっそく、“日経は浜田氏の見解を恣意的に編集している”、“浜田氏は金融政策が誤りだなどと言っていない”と猛反論している。

『浜田宏一内閣官房参与に「金融政策の誤り」を認めさせたがる困った人たち』
(Newsweek日本版11月20日 田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授)
http://www.newsweekjapan.jp/tanaka/2016/11/post-9.php

元々、経済学者というよりも、アイドル評論家の方が本業に近い田中氏(※ジョネトラダムスとの詭弁コンビ結成中)だが、Newsweekのコラムの中で、
「そもそもこのインタビューを最後まで読めば、浜田参与は、日銀が「買うものがなければ」という条件つきで外債購入をすすめている。これは金融緩和がデフレ脱却に効果が「ない」という人の発言ではない。効果が"ある"から外債購入も選択肢に入るのだ。
 ところが一部の論者やメディアの中では、先ほど指摘したように、浜田参与があたかも量的緩和などの金融政策がデフレ脱却に失敗し、その考えを改めるという趣旨としてこのインタビューを解釈している。」
と反論し、これを機に、他のリフレ派連中も、一斉にブログやツイッターなどを使って文句を垂れ始めた。

しかし、浜田氏のインタビュー記事が出て4~5日も経ってから反論するのは、あまりにも遅すぎる。彼らは新聞すら読んでいないのか?
新聞記事は何気なくスルーしたものの、他の論者から、浜田氏に対する批判記事が出たのを見て浜田理論の瓦解に気付き、慌てて反論し始めたのだろう。

事の真偽が気になるなら、浜田氏本人に直接真意を質すか、氏の発言を捏造した(はずの)日経の不買運動でも仕掛けたらいかがか?

また、田中氏は、浜田氏が金融緩和政策の一環として外債購入に言及したことに縋り、氏が金融緩和政策の効果を否定していない証拠だと強弁している。

しかし、インタビューの中で浜田氏が犯した論理矛盾(金融政策の限界を吐露しながら、外債購入に縋ろうとする姿勢)は、単に浜田氏が強がっているか、耄碌しただけではないか。
「詭弁・ステージチェンジ・手柄の横取り」が得意技のリフレ派らしい狼狽ぶりが露呈しただけのことだろう。


田中氏の詭弁は、まだ続く。
氏は、さきほどのコラムで、次のように述べている。
「特に財政政策が効果的になるには、金融政策の転換が必要条件となる。財政政策だけでは不十分なのだ。(中略)
浜田参与に「金融政策は効果がないこと」を「反省」させたい人たちには、安倍政権になってから現時点までの消費者物価指数、GDPデフレーターがマイナスのままだということを「金融政策に効果がなかったからデフレのまま」と主張しているようだ。
だが、これは浜田参与がインタビューで指摘しているように、金融政策が効果がないからではなく、消費増税などの影響である。」

先ず、財政政策と金融政策とのポリシーミックスの重要性は当然のことであり、機能的財政論を主張する者の中に、財政政策一本足打法でよいなどと主張する者などいない
“金融政策は財政政策のサポート役に徹してこそ、その本領を発揮する”という事実を認めたくないがゆえに、事実を捻じ曲げてはいけない

口先では「ポリシーミックス」などと言いながら、減税以外の財政政策に露骨な嫌悪感を表すリフレ派の方こそ、ポリシーミックスの発想を蔑ろにしている。
彼ら流のポリシーミックスとは、「金融緩和政策+緊縮・構造改革」を指しているとしか思えない。

彼らは、消費税増税こそが金融政策不調の主因だと言い立てる。
しかし、増税そのものを主導した安倍政権の応援団を辞めようとしないし、増税賛成派の黒田総裁を批判することもない。

リフレ派に言わせると、浜田氏は増税反対派だそうだが、氏はインタビューの中で「『コアコア』の消費者物価指数でインフレ率が安定的に1.5%に達したら、消費税率を1%ずつ引き上げてはどうか提案している。逆にそれまでは消費増税を凍結すべきだ」と述べている。

リフレ派認定済みの『増税反対派』にしては随分と大甘な発言で、日銀の物価目標にも満たないインフレ率に達した時点で消費税率の引き上げを主張する始末で、その支離滅裂ぶりには目も当てられない。

彼らの増税反対への覚悟のほどは、せいぜい、『10%への増税凍結』レベルにすぎず、税率の引き下げや消費税の廃止にまで踏み込むつもりはないらしい。
この程度で、消費増税反対派を自称しているのだから大したものだ。


インタビューの後半で田中氏は、次の様に主張している。
「また浜田参与は、日経新聞のインタビューの中で、「国民にとって一番大事なのは物価ではなく雇用や生産、消費だ」と強調している。雇用指標は20数年ぶりの改善を示す数字がならぶ。これは金融政策の効果だが、それを見ないのが、浜田参与に間違いを認めさせたい人たちの共通するマインドである。(中略)
経済低迷には、金融政策の転換を前提にした、財政政策と金融政策の合わせ技を全力でやりぬくべきなのだ。それ以外の選択肢はジャンクだ。」

相変わらず、“雇用の量的改善”を金融政策の手柄だと言い張っているが、そんなものは、生産年齢人口の動態変化と所得減少を危惧した家計の防衛行動(=嫌々パートの増加)によって質の悪い雇用が増えただけで、金融政策の影響などゼロに近い。

信じられぬなら、景気の良さそうな経営者に、「御社が雇用を増やしたのは、金融緩和政策のおかげですか?」と直にヒアリングしてみればよいだろう。

ちなみに。帝国データバンクが、今年の10月に全国2万4千社余りに調査した「金融緩和政策に対する企業の意識調査」によると、金融緩和政策の効果について、「実感がある」との回答は、たったの12.9%しかなかったが、「実感はない」59.7%、「分からない」27.5%を合わせると87.2%にも達している。
しかも、実感があるとの回答割合が多かった業種は、「金融24.8%」、「不動産22.0%」に偏っており、雇用の波及効果が高い「製造14.0%」、「サービス9.9%」、「小売9.3%」などの業種は軒並み低位に止まっている。

普通に考えると、9割近くの企業が効果を実感できないような政策が、雇用にプラスの影響を与え得るはずがないことくらい小学生でも理解できる。


財政政策の効果に嫉妬し、嫌悪しておきながら、口先では財政政策を否定しないと詭弁を弄して金融緩和政策による一本足打法に固執し、経済指標に何らかの改善があれば、すべて金融政策のおかげだと大嘘をバラ撒く。

リフレ派には、財政政策と金融政策の合わせ技を全力でやり抜く気迫など一mmもない。
そうした彼らの詭弁こそ、「ジャンク」だと呼ぶべきだろう。

2016年11月17日 (木)

敗北したのは、プロのふりした「ドシロウト」

米大統領選の結果が生んだ衝撃の余韻がなかなか収まらない。
投票からすでに1週間以上が経過したものの、米国社会には、いまだにトランプ氏の当選という結果を受け容れられず、ざわついた雰囲気が漂っている。

トランプ氏とはどんな人物か?
本音トークだらけの選挙公約を、どの程度本気で実行するつもりなのか?
と、喧々諤々の議論が沸き起こっている。
(いま予想合戦に熱を上げても意味がなく、彼が大統領に就任してから、その動向を観察したうえで、じっくり対応すればよいだけのことだ)

また、前代未聞の大逆転劇の原因について、多方面からあれやこれやと分析がなされており、
①グローバリゼーションによる産業空洞化で職を失った中産階級の怒り
②経済格差拡大の放置に対する怒り
③オバマケアをはじめとする欠陥だらけの社会保障制度に対する将来不安
④不法移民の横行による低賃金化と治安の悪化
⑤ポリティカル・コレクトネスの押し付けや言論弾圧への不満
⑥移民・マイノリティなど弱者への配慮過多に対する不満
が「サイレント・マジョリティー」を突き動かした。
すなわち、国民の不安や不満を綺麗ごとで押さえつけておきながら、自分たちだけは甘い汁を吸い続けた「セレブリティ」や「政治のプロ」に対する怒りが爆発したのだ、というのが、マスコミ連中や識者たちの一般的な分析結果だろう。

こうした論調を聞くにつけ、筆者には、ひとつ気にかかることがある。

それは、手痛い敗北を喫した民主党をはじめ、アメリカ経済を不調に陥れた既存の政治家たち(=新自由主義者&緊縮主義者)を、果たして「プロ」と呼んでいいのか、という点だ。

青山学院大会田教授のコラム(11月16日北海道新聞『緊急連続評論 トランプの米国 下層中産階級の「革命」』)によると、リーマン・ショック後に回復した株価や失業率を横目に、アメリカの下層中産階級の平均家計所得は2014年までに6.5%も下がっているそうだ。

世論調査会社ギャラップの調査によると、、「自分は、安心して暮らすのに十分な所得を得ている」と答えた人の割合は、自分は中産階級に含まれると回答した人のうちで37%、下位中産階級とした人では15%に止まり、さらに、中産階級のほとんどが「この先も中産階級の地位にとどまっていられるかはわからない」と考えており、57%は、「今後数年のうちに、下位の階層に落ちてしまうかもしれない」と心配しているそうだ。

さらに、広瀬隆雄氏のコラム(BLOGOS 『格差社会アメリカの起源「中流の失われた10年」ピュー・リサーチセンターの最新の報告書から』)によると、「ミドルティア(Middle-Tier)の年間家計収入は2000年の約7.3万ドルから2010年には6.95万ドルへと減少しました。さらに純資産も2001年の約13万ドルから2010年には9.3万ドルへと減少しました。中流に属するアンケート調査回答者のうち、実に85%が今の生活水準を維持することがより困難になったと回答して(いる)」そうで、アメリカの下層中産階級の没落ぶりは誰の目にも明らかだ。

政治家としての実績や成果を評価するに当たり、何を以って良否を判断すべきか。

最も重要なのは、国富を如何に拡大させ、その果実を多くの国民に供与できたか、という点だろう。
つまり、低中所得層の絶対的な所得水準とその伸び率こそが、最適な評価指標だと思う。

政治家の連中が、いくら綺麗ごとや美辞麗句を並べても、国民の財布が軽くなり、腹を空かせ、明日への希望を失ったままでは、とてもじゃないが、プロとして及第点を与えることはできない。

ここ20~30年というもの、日米欧の政治家たちは、新自由主義や改革主義、緊縮主義にすっかり汚染され、マクロ的視点から国家や政治を俯瞰する能力を失ってしまった。
そして、「改革だ」、「ムダを減らせ」とさえ叫んでおれば、周囲から(過大な)評価を得られるというぬるま湯に浸り切ってきたのだ。

こうした悪弊が、「政府支出はムダ」、「既得権益は悪」という空気を醸成し、それらが家計や企業間にも影響したせいで、国家の経済政策や実体経済に、
・支出や消費は忌避すべき
・経済的困難は改革と成長戦略で克服すべき
・財政政策みたいな卑しい手段は発想から消し去るべき
といった足枷が嵌められ、所得減少や需要不足を招く主因となったのだ。

米大統領選でクリントン氏や彼女を応援する世界中のマスコミ・識者の連中が大敗北を喫した原因は、「政治のプロが国民の不満を汲み取れなかったから」ではない。
『そもそも、真の政治スキルを備えていないドシロウトが、調子に乗って失政を繰り返した』から負けたのだ。

2016年11月14日 (月)

世界でたったひとつの「グローバリスト棲息地・日本」

イギリスのEU離脱に続き、アメリカ大統領選でのトランプ氏の勝利という、悪夢かつ屈辱的な“逆転負け”が続いたせいか、新聞や雑誌には、新自由主義者どもの見苦しい恨み言が目白押しだ。

 

『「米保護主義」加速の危うさ』(篠原尚之・前IMF副専務理事 1112日 Sankei Biz

 

篠原氏は、大蔵省OBの元財務官で、IMF在籍中も財務省流の緊縮思想や改革絶対主義をバラ撒き続けた人物である。

その篠原氏は、今回のトランプ当選という結果を受けて、記事の中で次のように述べている。

 

「米国が内向きになることで、英国の欧州連合(EU)離脱や欧州での移民制限などの保護主義的な動きが強まることに懸念を抱く。世界経済が低成長にあえぐ中で、どこの国民も余裕がなくなってきている。

 数年前までは国内総生産(GDP)より大きく増加していた世界の貿易量が大きく落ち込んできているのも、各国の保護主義的な政策の影響があるからだ。」

 

彼の主張には大きな誤りが2点ある。

 

1つ目は、国内産業の保護育成に必要かつ適切な貿易政策に対して、「保護主義」あるいは「内向き」だと悪意に満ちたレッテル貼りをして貶めようとしていること。

 

2つ目は、世界的な低成長や2012年辺りから始まった世界規模の貿易量の伸びの鈍化は、保護主義のせいだと大嘘をついていることだ。

 

まず、昨今の反グローバル運動や過激な自由貿易や移民政策への反発に対して、内向きだとか、自国優先主義だとか、民族の分断を煽っているなどといった事実誤認も甚だしいレッテル貼りは止めてもらいたい。

 

国家の存在意義や政治の目的は、自国民の生命や財産を守って生活の安寧を図るとともに、その質を未来永劫向上させ続けることにある。

 

よって、各国の政治が、自国民ファーストや自国第一主義に則り行われるのは、至極当然のことで、関税や規制を活用して貿易量をコントロールしつつ、国内産業の保護や雇用の確保を図りつつ、その間に技術力や人材を育成し国力増加に努めるのが、極めてスタンダードなやり方だろう。

 

安倍政権や与党の連中みたいに、国民をシバキながら、海外(後進国)に浄財をバラ撒くバカ者の方がどうかしているのだ。

 

この手のバカ者は、年がら年中「日本は世界に門戸を開くべきだ。自由貿易バンザイ‼」、「自由貿易のおかげでIPhoneが買えるんだ」、「保護主義により世界から孤立して貿易ができなくなるぞ」と騒いでいるが、子供じみた妄想を振りまいて恥ずかしくないのだろうか?

 

我が国は、輸出入量が、それぞれ、ここ10年余り毎年5080兆円にも達する世界第4位の貿易大国であり、保護主義云々などまったく当て嵌まらない。

むしろ、国内産業の存立を脅かすような輸入規制の過度な緩和や撤廃を改めるとともに、雇用を確保するために野放図な資本移動や技術移転に対して、より厳しい規制を課すべき時期にある。

 

シリア難民がIPhoneで撮影しながら欧州の国境を喜んで越える姿を見れば、(無制限の)自由貿易なんてなくてもIPhoneくらい誰でも買えるし、保護主義=完全なる鎖国ではなく、“国内産業の維持・育成に必要な適切な規制の下での自由貿易”という意味だから、世界から孤立することなどありえない。

 

完全なる自由貿易や過度な規制撤廃を求める彼らの主張は、あまりにも荒唐無稽であり、到底認められない。

8090年代前半のように、資本や資金・技術の海外移転に適度な規制を設けつつ、高度加工に必要な原材料の輸出入はある程度自由化するような緩やかな自由貿易体制で十分なのだ。

 

 

次に、新自由主義者どもの、世界的な低成長や世界規模の貿易量の伸びの鈍化は保護主義のせいだというのは、失笑ものの大嘘であることを指摘しておく。

 

世界経済や貿易量の伸び率は(リーマンショック後を除くと)2012年頃から鈍化しているが、その頃は、過度な自由貿易論信仰論が世界を席巻した最盛期であり、保護主義など反グローバル主義の萌芽すら感じられぬ時期であったはずだ。

 

ヒト・モノ・カネ・技術の移動や移転が自由化され、規制が撤廃されたせいで、先進諸国から製造拠点やサービス拠点が後進国へプレゼントされて雇用の場が減ってしまった。

そして、低賃金労働しか能がない後進国との低価格競争の下で企業収益が低下し、家計所得の伸びも鈍化を余儀なくされた。

 

つまり、先進諸国の労働者層、とりわけ低中階層の所得鈍化が先進国の内需を冷え込ませ、世界的な買い手不在の状態(=需要不足&供給過剰)を創り出し、世界的な低成長や貿易量の鈍化を招いた、というのが事実なのだ。

 

保護主義ではなく、先進国から需要力を奪い去った新自由主義や過度な自由貿易主義こそが、世界的な低成長や貿易量の鈍化の真犯人だと言える。

 

新自由主義者どもは、国内から雇用の場を取り上げ、国民から富を奪い、それらを勝手に後進国に投げ渡しておきながら、国民に向かって「これからはグローバル競争の時代だ」と檄を飛ばして、「雇用と所得が欲しければ、後進国の連中と競争して奪い取ってこい」と命じているようなものだ。

 

彼らは、“雇用と富を海外に流失させ、低賃金労働とデフレを国内に流入させる”という大愚策を「グローバリズム=世界の潮流」と称して、国民を騙し続けてきた。

 

国民は、元々国内に在った雇用や富を奪われた挙句に遠くに放り投げられ、頭のおかしな新自由主義どもから、“生き残りたければ自己責任と自助努力で取り戻して来い”と理不尽な要求を突きつけられているという事実に、いいかげんに気付かねばならない。

 

グローバリズムの怪しさや如何わしさに疑問を抱き始めている欧米諸国の国民と比べて、我が国の意識や民度は周回遅れ気味であるのは否めない。

あと4~5年もすると、我が国は、「世界でたったひとつのグローバリストが棲息する国」として世界中から嘲りを受けかねない。

2016年11月10日 (木)

憎悪を生んだ真犯人

アメリカ大統領選挙の結果は、事前の予想を覆しトランプ氏の圧勝に終わった。
現時点の選挙人獲得数は、トランプ氏290・クリントン氏232と大差がついた。
単純な得票数では、クリントン氏の方が僅かに上回ったようだが、獲得選挙人数では惨敗と言える。

今回の結果を受けて筆者の感想や想いは次のとおりだ。
・欧米のバカマスコミは、冷静な分析よりも願望を優先させがちであり、彼らの選挙予想はまったく当てにならない。
・トランプ氏のひととなりがよく判らぬ現段階での過剰な期待は控えたい。
・氏が公約に掲げた「アメリカ・ファーストの原則」、「TPPからの脱退と関税率の引き上げ」、「行き過ぎたグローバリズムの是正」、「野放図な移民の制限」は、ぜひ実行に移してもらいたいが、「政府支出の無駄削減」や「法人税率引き下げ」はやるべきではない。
・日本は、トランプ氏の出方に右往左往するのではなく、「ジャパン・ファースト」の姿勢を貫き、粛々と自国と自国民の利益確保に努める行動を取ればよい。

一連の報道の中で、トランプ当選の報を受けた日本の政府高官が「誰に話せばいいのか分からない。トランプタワーに電話すればよいのか」と不安げに話していたそうだが、こんな低レベルのバカが政府の要職に就いていること自体に呆れるよりほかない。

トランプ氏は昨年から共和党候補レースを優位に進め、当選の可能性はゼロではないのだから、もっと早くからパイプ作りに手を付けておくべきだったろう。
この程度の寝技もできぬとは、日本政府の人材不足は後進国並みのお粗末さだ。

今回の大統領選の結果は、多くのマスコミが驚愕と落胆を以って報じているが、報道の中身は
①サイレントマジョリティーの躍動を軸とする勝因分析に始まり、
②人種差別発言を繰り返し、アメリカを孤立主義へと導く(とレッテル貼りして)トランプ氏の姿勢に対して強い懸念を示す
といったワンパターンな内容ばかりで呆れている。

代表的なのが、次の北海道新聞のコラムで、他紙もだいたい同じような記事を書いている。
『トランプ氏勝利 変革求める怒り顕在化』(11月10日 北海道新聞 ワシントン駐在・橋本克法)
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/international/international/1-0336476.html
「オバマ大統領が8年前の選挙戦で掲げた、明るい未来に向けた「チェンジ」とは全く異質の「変革」を求める怒りが、今回の大統領選で全米を包んでいたのだろう。誰もが驚く結果が待ち受けていた。しかしその怒りは、全米各所に垣間見えていた。
 オバマ政権の以前から、米国も例外なく襲ったグローバル化の波は、生産拠点の海外移転を促し、国内産業は空洞化した。低賃金で働く移民たちも増えた。国内外の競争激化にさらされて、中間層だった白人労働者たちは今、失業と低賃金にあえいでいる。チェンジが実現しないまま旧来の政治が続くという恐怖。そうした気持ちを抱く人たちに対しトランプ氏は、ベテラン政治家のクリントン氏こそが何も変えられなかった元凶だと決めつけ「すっきり流してしまえ」と訴えて熱狂させた。
 一方の若者たち。格差社会を勝ち抜く学歴を得ようとしても、大学の授業料はこの10年で約1・6倍に。平均3万7千ドル(約380万円)の奨学ローンを背負って卒業しても、好待遇の職が保証されているわけではない。既存政治への不満と絶望する姿は、トランプ氏支持者と重なる。
 しかし人々の不満や怒りをメキシコや中国、既存政治家、不法移民、イスラム教徒などに向けたトランプ氏の手法は、米国民の分断と孤立主義を招いた。(後略)」

グローバリズムと財政緊縮主義に蝕まれた米国社会は、産業の空洞化と雇用・所得の不安定化が常態化し、中間層だけでなく移民を含む低所得者層も過酷な労働環境と未来を見通せない失望感に苛まれ続けてきた。

これは、アメリカだけの問題ではなく、欧州や我が国にも共通する深刻な病なのだが、既存の政治家や官僚、識者、マスコミの連中は、こうした病魔を退治するどころか、「旧弊を打破するために避けられぬ改革だ」、「変革のために我慢すべき試練だ」と大嘘をつき、国民を騙し続けてきた。(率先して騙されるのを好むバカな国民も多くいるのだが…)

北海道新聞のコラムは、“トランプ氏が米国民の分断と孤立主義を招いた”と、単に批判するばかりで、全米の政治地図を塗り替えるだけの強烈なパワーを秘めた米国民のやり場のない憤りとエスタブリッシュメントたちへの計り知れぬ憎悪を癒し、改善しようとする姿勢はまったく見受けられない。
貧困化していく国民に向かって、ただただ我慢と忍耐を強いるしか能がない連中ばかりではないか。

「米国民を一部の富者と多数の貧者に分断したのは誰なのか?」
「過度な開放主義(=幼稚なグローバリスム)は、孤立主義を上回る便益や富を国民にもたらすことができると、定量的に説明できるのか?」
底の浅い識者どもは、こうした疑問に対して、正確に回答すべきだ。

北海道新聞の別の記事には、米国初の女性大統領の誕生を夢見ていた女子大生の「トランプ氏の支持者は少数だと思っていたが、サイレント・マジョリティーだった。憎悪をあおる人物が大統領にえらばれる社会はどこかおかしい」とのコメントが掲載されていたが、いかにも底の浅い意見だと思う。

そもそも、社会全体に憎悪を生み出した人物は誰なのか?
クリントン氏をはじめとする既存のエスタブリッシュメントの連中は、その憎悪に気づけなかったのか?、そして、憎悪を癒す努力をしてきたのか?

こんなことに疑問すら持てぬ連中に、政治を語る資格なんてない。

2016年11月 9日 (水)

ナマケモノが招く後進国化

11月8日に福岡市の博多駅前で大規模な道路崩落事故が起き、大きなニュースとして全国的に報じられた。

事故原因は、「地下鉄七隈線」の延伸工事の際に線路となる横穴を掘削していたところ、トンネル構内で水が噴き出したことによるものだそうで、地上に幅30メートル、深さ15メートルもの巨大な穴が開いたにも拘わらず、幸いなことに一人のけが人も出ていない。
早朝に起こった事故とはいえ、陥没したのは九州でも一・二を争う交通量を誇る場所であり、死傷者ゼロという結果は奇跡的な幸運だと言ってよい。

バカマスコミの連中は工事や監督の不手際を指弾し、福岡市や工事業者を責めたてようと必死だが、むしろ、現場の迅速かつ適切な初期対応をこそ賞賛すべきだろう。
こうした好事例を共有し、事故を未然に防止するシステムの構築に役立ててほしい。

さて、我が国には、インフラ整備や公共工事に対して条件反射で嫌悪感を露わにするバカ者がいる。
『日本のインフラが朽ちていく!五輪後の悲惨な未来予想図』(11月9日 週刊ダイヤモンド編集部)なる記事にも、そんな“インフラ嫌悪症患者”の戯言が並んでいる。

記事では、2033年に建設後50年以上を経過するインフラをグラフで示しているが、自動車道トンネル100%、鉄道トンネル91%、自動車道橋87%、鉄道橋83%、道路橋65%、空港63%、公営住宅60%、港湾51%など軒並み高い割合であり、我が国の交通網が分断されてしまうのでは、と背筋が寒くなる。

国の行く末を心配する普通の神経の持ち主なら、“これはヤバイ! 将来世代の生活基盤を守るためにインフラの更新や整備を急がねば”という発想になるはずだ。

しかし、記事の主張は真逆で、見出しに「現状は“ゆでガエル” インフラ統廃合を阻む議会制民主主義の弊害」とあるように、インフラの更新どころか、人口縮小に合わせたインフラの統廃合を訴えるありさまなのだが、財政赤字嫌悪症やインフラ嫌悪症患者がウヨウヨいる日本なら、むしろ記事に賛同する意見の方が多数派だろう。

記事では、公共インフラの更新費用は20年を待たずして年間10兆円を突破すると指摘しているが、その対応策は、積極的な整備・更新ではなく、“統廃合”であるべきと主張している。
つまり、これからの日本は人口が減るのだから、身の丈に合わせてインフラを廃棄すべきという訳だ。

「都市部でも、橋が2本あれば『3本目を造ろう』ではなく、『どっちを壊すか』という議論になる。民間ではマンションは大量に余り、首都圏で路線廃止も起きかねない」
(政策研究大学院大学 松谷明彦名誉教授)
さらに、
「われわれは今のインフラが当たり前と思いがちだが、実は高いコストを支払っていることを知るべき。個々の施設ごとにその費用対効果を可視化することで、統廃合への理解を得ていくしかない」
(野村総合研究所 宇都正哲グループマネージャー(工学博士))
という識者の意見を付して、読者に縮小社会の容認を迫っている。

公共インフラの在り方を、単純に人口比だけで積算しようとする小学生の言いなりになっていると、隅田川に掛かる橋が一本ずつ減らされ、トンネル工事の予算がないという理由で東北新幹線の仙台以北が廃線されるような愚を犯されかねない。

たかが橋一本と侮り、調子に乗って廃棄を続けて行けば、交通渋滞の頻発や防災用緊急避難路の確保など社会的効用が大きく棄損されるし、橋を新設し維持する技術そのものが喪失されてしまう。
これは、供給力という国富の根幹を失うこととイコールであり、我が国の経済発展の可能性を根こそぎ奪う大愚考だと言える。

インフラ整備に必要な10兆円は、コストではなくGDP拡大の商機だと理解すべきだ。

人口が減るからインフラのメンテナンスを止めましょう、なんて暴言を吐く者に対しては、罰として自宅前の道路を閉鎖すべきだろう。

人口がほとんど増えなかった江戸時代でさえ、幕府や各藩は懸命にインフラの新設や維持更新に努め、そうした先見の明が、明治期以降の飛躍的な国土や産業の発展の礎となったのだ。

いまを生きる我々は、過去に先人たちが整備してくれた膨大な量の社会インフラに守られ、当然のごとく利便性や安全を享受できる環境にある。

なのに、これから生まれる未来の日本人に対しては、「カネがないし、モッタイナイから老朽化したものから順次廃棄するわ」で済まそうとしている。
なんと、情けない日本人なのだろうか…

恐らく我々は、100年先の日本人から、“日本を後進国化させるきっかけを作った最もやる気のない世代だった“と揶揄されるに違いない。

社会インフラや公共インフラは、国家の社会基盤や産業基盤、国民の生活基盤を24時間365日体制で支え続ける「優しいゆりかご」であり、生活の場そのものである。
インフラの維持向上やメンテナンスの必要性が尽きることはなく、それを放棄するのは、国家としての存在を放棄するに等しい。

(追記)
本稿を書いている最中に、アメリカ大統領選挙の速報が入り、予想に反してドナルド・トランプ氏の当確が報じられた。
敗れたヒラリー・クリントン氏は、世界中のマスコミから過剰とも言える応援を受け、大物歌手や有名スポーツ選手を応援演説に呼びつけた挙句の敗戦であり、面目丸つぶれだろう。
トランプ氏が、今後どのような態度を取るか判らず、現時点での彼に対する過剰な期待は控えたいが、「アメリカ・ファースト」、「有害なグローバリズムの否定」、「野放図な移民政策の転換」という公約を粛々と進め、投票したアメリカ国民の期待に応えてもらいたいと思う。
しかし、マスコミの票読みはいい加減だ。
バカマスコミの連中が、事実を無視して願望を優先させ、世間に大ウソをバラまいた罪は重い。
彼らは、当たりもしない選挙分析から引退すべきだろう。

2016年11月 8日 (火)

IPhoneですべてを騙るシロウト論

「関税がなく、何の規制も存在しない完全なるフリートレードの世界」、そんな妄想に年中浸りきっている“TPP信者”や“野放図な自由貿易信者”の発想は極めて幼稚だ。

彼らは、国境のない世界を夢見る青臭い中学生みたいなもので、行き過ぎた自由貿易論の愚を指摘されると、すぐに逆ギレし、“鎖国か、完全なるフリートレードか”という幼稚な二者択一論を振りかざす。

我が国は、ここ10年間の輸出入額が、それぞれ毎年50~80兆円にも達する世界に冠たる貿易大国であり、すでに十分すぎるほどの“自由貿易国家”と言ってよい。
だが、フリートレード教徒としては、いつまでも“日本=時代遅れの鎖国国家”でいてもらわないと困るため、いかなる統計数値をも認めようとはせず、“規制緩和だ、市場開放だ”とバカ騒ぎしている。

フリートレード教徒の頼みの綱は牛肉・オレンジの自由化とIPhoneで、持説を主張する際に、決まってこれらを持ち出してくる。

だが、1991年の牛肉・オレンジ自由化により、国内の肉牛生産農家やミカン栽培農家の数は激減し、国民一人当たりの牛肉やミカン類の消費量も減少の一途を辿っているなど、自由化の恩恵どころか「被害と損害しか出ていない」というのが正解だ。

彼らは、案外、お上りさん気質の田舎者だから、“世界企業”とか“グローバル・サプライチェーン”みないた言葉にコロッと騙され、無条件に憧憬を抱きがちだ。
IPhoneのように、サプライチェーンが世界20カ国以上にも及ぶ製品こそが、自由貿易の産んだ金の玉子だと信じて疑わず、“これぞ自由貿易の真髄、食糧だって安い国からどんどん買えばいいじゃん”と軽いノリで判断するから情けない。

不要不急の電子機器のサプライチェーンの話と、国民の生命や健康に直結するだでなく、幅広い裾野の関連産業を抱える食糧生産の話を一緒くたにして論じるべきではないし、IPhoneのサプライチェーンが善だから、食糧品をすべて外注すべきという結論にはならない。

IPhoneのグローバル・サプライチェーン一つを取っても、アップル社目線なら是とすべき製造形態なのかもしれないが、よりマクロ的な視点、例えば、アップル社を抱える国や地方政府レベルの目線で判断すると、国外に散らばっているサプライチェーンを国内に集約し内製化を進める方が、雇用や国民所得に与えるプラスの影響は遥かに大きくなる。
グローバル・サプライチェーンなんて気取っているが、そんなものは、あくまで、アップル社という一企業の都合に過ぎず、国家というマクロ単位でモノを考えると、サプライチェーンの環をできるだけ極小化して自国内に収める方が国益に適うだろう。

グローバル・サプライチェーンと言えば、自動車産業も同じだが、自動車産業は、むしろ、サプライヤーの現地調達率向上を図り、野放図なサプライチェーンの拡大を見直す動きをしている。
部品の安定調達、短納期化、品質維持、カントリーリスクの低減などを目指しており、フリートレード教徒が抱く時代遅れの拡大論とは真逆の発想で、サプライチェーンの縮小化や集約化を図っている。

農林水産業のGDPは5.6兆円程度とされ、その多寡の如何にかかわらず、それだけの産業規模が現に存在しているという事実は動かしがたい。
6兆円近くの経済規模を誇る巨大な産業を無理に縮小させるメリットが、一体どこにあるというのか?

むしろ、国民の健康志向や安全志向にマッチした農林水産品の開発への取組みを支援するなど、産業振興や技術開発により高付加価値化や産業としての拡大を図るべきで、そういった国家を挙げての取組みが、国内の関連産業へプラスの波及効果をもたらし、経済の国内循環をより高めることにつながるのだ。

日本が得意とする農林水産業を、つまらぬフリートレードの生贄に仕立てる必要などない。

フリートレード教徒の連中は、言うに事欠き、“農業を過度に保護すれば、農業者をいつまでも農奴に縛り付けることになり、より生産性が高く8時間労働や週休二日といった“今どき当たり前”の産業に向かうことを妨害してしまう“などとバカげた寝言を吐いている。

彼らは、“より生産性の高い(=高収入)の仕事は何なのか?”について、何も具体的に語れないし、「サラリーマン=8時間労働+週休二日」というあり得ないシロウト論を騙っている。

いまどきのホワイトカラー層が直面しているのは、ブラック企業が横行し、長時間労働が常態化する過酷な職場環境であり、正直に言って、3K職場と揶揄される農林水産業の方が遥かに恵まれている。

確かに、統計上のサラリーマンの労働時間は、畑作農家などより低い数値が出ているが、そんな数値など単なる建前で、拘束時間の実態は、軽くその1.5~2倍にも達っしている。
農林漁業者のように、自分の裁量で計画を立てることができ、やればやるだけ実になる(=努力が収入に直結する)性格の仕事は、サラリーマンよりも、遥かに有意義だろう。

最後に、フリートレード教徒の「貿易というのは取引であって,モノとモノの交換。より多くのモノを手に入れるのが富であり,カネが富ではない」という戯れ言にも触れておく。

“貿易がモノとモノとの交換”、“カネではなく、モノを手に入れるのが富”という見方は、ハズレとまでは言えないまでも正確ではない。

マクロ単位で見れば、モノの輸出→資金決済→モノの輸入・・・という構図が連続し、真ん中を端折れば、モノとモノとの交換と言えなくもないが、貿易に携わる企業や個人が究極的に求めるのは、残念ながら「カネ」である。

カネを入手する目的やカネの存在意義は、最終的にはモノやサービスの消費に行き着くはずだが、現実は単純ではない。
特に、デフレ不況の真っただ中にいる企業や個人は、モノやサービスの購入権たる“カネ”を至高なものと捉え、カネの貯蔵意欲が増大する。
カネが貯蓄に向かい、消費(=モノを手に入れる)に向かわぬため需要が低下し、深刻な不況を招いているのだ。

フリートレード論を振りかざし、野放図な自由貿易が蔓延すると、海外との価格競争に敗れた国内産業が低迷し、やがて内需の縮小を招き不況が到来する。

「より多くのモノを手に入れるのが富であり,カネが富ではない」なんてのは、不況の世の中には当て嵌まらぬ単なる精神論で、多くの企業や家計は、そもそも、モノを手に入れるためのカネがないのが最大の悩みなのだ。

そんなことも解からぬ青臭い夢想論者に、経済を語る資格などない。

2016年11月 5日 (土)

他山の石

『朴槿恵大統領支持率5%…歴代最低』(中央日報日本語版 11/4()

「朴槿恵(パク・クネ)大統領支持率が5%で歴代大統領支持率の最低値を記録した。

大邱(テグ)・慶尚北道(キョンサンブクド)地域(10%)、釜山(プサン)・蔚山(ウルサン)・慶尚南道(キョンサンナムド)地域(9%)を除く地域では5%にも及ばなかった。

4日、韓国ギャラップが発表した11月第1週(1~3日)に全国の満19歳以上の成人男女1005人を対象にした世論調査の結果だ。過去、韓国ギャラップの大統領支持率最低値は金泳三(キム・ヨンサム)元大統領のもので、外国為替危機の影響で支持率が6%(5年目10-12月期)に下落した。」

 

報道のとおり、韓国の朴大統領が、外交関連の機密文書を親交のある民間人で政権の「陰の実力者」と呼ばれていた崔順実氏に流出していたことが発覚し、さらに、大統領府が便宜供与した疑いのある財団の資金を崔氏が流用した可能性も浮上したこともあり、朴氏に対する支持率が急降下している。

 

ソウル市内では、大統領を弾劾する2万人とも5万人とも言われる大規模なデモが起こったほか、韓国の最大野党「共に民主党」や第3党の「国民の党」、革新系野党の正義党が、朴大統領による首相と閣僚2人の交代を軸とする内閣改造の撤回を求めるとともに、首相・閣僚候補者の人事聴聞会をボイコットする方針を固めるなど、政治も混乱を極めている。

 

筆者としては、反日政策を振りかざす朴氏が、深刻な政治的危機に陥ったこと自体には、小気味良さを感じている。

このまま、朴氏の弾劾にまで事が発展すれば良いとさえ思っている。

 

だが、今回の一連の事件に対して、なぜ韓国国民がこれほど怒りを沸騰させているのか?という点に関して正直言ってピンとこない。

 

韓国という国に生まれた国民は、つくづく不運だと同情を禁じ得ない。

 

腐敗した政府、財閥による政治経済支配、異常な過当競争、有力なコネを持つ者が特権を握る強烈なシード権社会、企業の労働法違反、脆弱な社会福祉制度、老人層の貧困、若者の就職難、膨大な個人債務問題、高い自殺率、兵役によるキャリアプランの分断等々、韓国国民は、デフレ不況に沈む日本人すら震撼させるような強いストレス下での生活を余儀なくされている。

 

韓国人の6割が「生まれ変わったら韓国には生まれたくない」と回答し、76.9%は移民を考えたことがあると答え、若者の9割近くが海外で働きたいと答えているように、韓国国民の多くは、自国の社会に強い不満を抱き、ほとほと愛想を尽かしている。

 

そして、これまでにも、こうした不満を爆発させるべき機会はいくつもあったはずだ。

例えば、

20103月の天安沈没事件(韓国海軍の浦項級コルベット天安が爆発・沈没し、乗組員104名のうち46名が行方不明。朝鮮人民軍による攻撃が疑われている)

201011月の延坪島砲撃事件(大延坪島近海で起きた朝鮮人民軍による砲撃で海兵隊員2名、民間人2名が死亡、海兵隊員16名が重軽傷、民間人3名が軽傷を負った)

20144月のセウォル号事件(大型旅客船「セウォル」が全羅南道珍島郡の観梅島沖海上で転覆・沈没した事故。乗員・乗客の死者295人、行方不明者9人、捜索作業員の死者8)

201412月の大韓航空ナッツリターン事件(ファーストクラスの乗客として乗っていた大韓航空副社長趙顕娥が客室乗務員に対してクレームをつけ、旅客機を搭乗ゲートに引き返させ運航を遅延させた事件)

など、政府のお粗末且つ弱腰な対応や財閥企業の不祥事が白日の下に晒された事件はいくつも起こっている。

 

本来なら、韓国国民は、政治や財閥に対する強い不満を、これらの事件が起こったタイミングで爆発させ、社会の在り方を変革するべきではなかったか?

それらを中途半端な処分で済ませたのに、なぜ、今回の機密文書の漏洩や民間人による政治の壟断の件に対して、異様なまでに怒りを爆発させているのか?韓国人の沸点のポイントがいまひとつ腑に落ちない。

 

日本でも、今回の騒ぎが連日大きく報じられ、TVのコメンテーターや多くの日本人も、他人事みたいに朴氏を批判しているが、権力者の友人やお気に入りの民間人による政治の壟断や政治的利益の我田引水ぶりは、何も韓国だけの問題ではない。

我が国にも、既にそうした悪癖は蔓延っている。

 

経済財政諮問会議をはじめとする政府の審議会や委員会、天皇陛下の生前退位問題を検討する有識者会議のメンバーに、財界人やエコノミスト、キャスター、政治学者など有象無象の如何わしい連中が紛れ込み、政治経済を自在に壟断している。

 

彼らは、選挙の洗礼を受けることなく、官邸や官僚サイドの恣意的な人事で政治の世界に介入し、特権を振るうことを見過ごされている。

しかも、連中は、新自由主義や構造改革主義、緊縮主義に染まった「日本衰退論者」ばかりで、国力や国富の低下につながる提言しかしない。

 

TPP法案が衆院特別委員会をすんなり通過し、財務省が5万人近い公立小中高教員の削減(増加するいじめ問題を改善するためには、逆に教員を増加すべきなのに…)を要求する、といった社会基盤の弱体化にしかならぬ愚策や暴論が罷り通る背景には、“民間の知恵”とやらを賛美するあまり、悪意を持った民間人の政治的壟断を易々と見逃す国民の意識の愚劣さがある。

 

韓国政治の失態は他人事ではない。

 

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