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2016年12月 7日 (水)

融資のことさえ知らぬ財務相

『麻生金融相「中小企業の事業内容よくみて積極融資を」 意見交換会 』
(12/6 日経新聞)

「麻生太郎財務・金融相は6日昼、金融庁で開いた中小企業などの金融円滑化に関する意見交換会で「経営者や事業の内容をみたうえで中小企業を育てていってもらいたい」と述べ、担保は少なくても事業は有望な中小企業への貸し出しを積極的に増やすよう金融機関側に求めた。
 麻生氏はさらに「融資課長など融資の最前線にいる人に目利きを育ててもらい、中小企業が大きくなるためにはある程度リスクをとるような指導をしてもらわないといけない」と述べ、金融機関側に事業の成長力などを適切に評価できる行員の育成を求めた。「年末や年度末は資金繰りが苦しい。こういったときに親身になって融資などの相談にのってほしい」とも要請した。(後略)」

同じニュースを報じた毎日新聞社の記事でも、麻生氏は、「担保を取ってカネを貸しているだけでは意味がない。中小、零細企業は資金繰りが極めて厳しい」と強調し、“担保主義脱却&事業評価重視型”の融資を増やすよう要請したそうだ。


確かに、中小企業の資金繰りは楽ではない。

経産省の「中小企業景況調査(2016年7-9月期)」では、中小企業の資金繰りDIは、「全産業の資金繰りDIは、(前期▲13.9→)▲13.7(前期差0.2ポイント増)とマイナス幅がやや縮小した。産業別に見ると、製造業で(前期▲13.0→)▲12.4(前期差0.6ポイント増)、非製造業で(前期▲14.3→)▲14.2(前期差0.1ポイント増)といずれもマイナス幅が縮小した」とし、若干の改善傾向が見受けられるものの、DIがプラス化するにはほど遠い水準だ。

また、商工中金の「中小企業月次景況観測(2016年11月調査)」でも、「資金繰りは▲2.2と「悪化」超幅が拡大」しており、中小企業の資金繰りの厳しさが覗える。

では、中小企業の資金繰りの厳しさは、担保主義の金融機関による悪質なイジメによるものかと言えば、決してそうではない。

日銀の無謀なマイナス金利政策の影響により、「5大銀行中間決算 大手3行が減益マイナス金利影響(毎日新聞)」、「地方銀行中間決算 マイナス金利が影響 利益14%減(NHKニュース)」、「低金利影響、8信金減収 静岡県内16年3月期決算(静岡新聞)」といった具合に、いずこの金融機関も内情は厳しい。

貸出実績こそ僅かに伸ばしている(国内銀行貸出実績:H28/9時点で対前年同月比+2.2%)が、預金の伸び(同+6.0%)にまったく追いつけず、貸出の平均金利も1.02%前後と低下する一方であり減収が避けられないため、どこも融資拡大を至上命題とし、熾烈な融資先の分捕り合戦が行われている。

融資拡大戦争の現場では、小売や卸売、製造などの業種に対する融資が思った以上に伸びない(卸売や製造に至ってはマイナス)ため、不動産投資物件や個人向け住宅ローンに注力して糊口を凌いているのが実情だ。

現に、日銀の金融機関貸出態度DI(2016年9月)は、全企業で3ケ月前より2.0Pt上昇しプラス25.0%Pt、大企業はプラス28.0%Pt(7年半以上連続上昇)、中堅企業はプラス28.0%Pt(6年半以上連続上昇)、中小企業はプラス21.0%Pt(5年以上連続上昇)という結果であり、金融機関サイドは、すでに数年前から積極的な貸出姿勢を露わにしている。

以前に騒がれたような「貸し渋り」はすっかり影を潜め、DI値だけならバブル期に近い値を示しており、“企業の資金繰りの厳しさが金融機関の融資態度にある”とする麻生氏の指摘や懸念はまったく的外れだ。

麻生氏は、いまだに担保主義云々と古くさいことを言っているが、金融機関サイドから見ると、担保、とりわけ、不動産担保ほど頼りない担保はない。
彼は金融情勢に関する情報のアップデートが必要だろう。

国交省のH28地価公示のデータを確認すると、東京・大阪・名古屋の三大都市圏では、住宅地・商業地ともに上昇しているが、地方中核都市を除く地方圏では住宅地▲0.7%、商業地▲0.5%と下げ止まる気配すらない。

全国平均でも、住宅地▲0.2%、商業地+0.9%、全用途+0.1%と、下げ止まりや上昇傾向が覗えるものの、上昇幅があまりにも小さ過ぎるため、担保力拡大にはほとんど寄与しない。

地価上昇と言っても、バブル崩壊以降下げるにまかせてきた地価が、ほんのちょっと下げ止まった、あるいは、持ち直したくらいの話であり、金融機関が担保主義に頼れるほどの水準には全然達していない。


金融機関は、かなり以前から担保主義に見切りをつけざるを得ず、独自に融資先の事業性評価に取り組んでいるが、正直言って、まるで機能していない。

その原因は、
・実業に携わった経験のない金融機関職員の知識不足
・融資先たる企業側の事業性(市場環境、自社の強み、ポジショニング分析など)に関する説明能力不足
など、互いに一半の責任があるが、事の真因は別に求めるべきだろう。

金融機関から企業への融資の流れを簡略化すると次のようになる。
①企業から金融機関へ融資の申し込み
②金融機関は、審査を経て、企業の預金口座に融資相当額を振り込み(貸出利息などを除いた額)
③企業は、融資(=借入金)を基に事業活動を展開し、売上や収益を確保
④企業は、③で得た収益(+償却財源)により、借入金の元金と利息を金融機関へ返済

では、融資拡大に積極的な金融機関と、資金繰りに苦しむ中小企業が混在する原因はどこにあるのか?

最大の問題は、上記③の工程が根詰まりしていることだ。

再び「中小企業景況調査(2016年7-9月期))」の結果を見ると、
・「業況判断DI」~全産業▲18.2、製造業▲15.6、非製造業▲19.0
・「売上額DI」~全産業▲17.9、製造業▲16.2、非製造業▲18.2
・「経常利益DI」~全産業▲24.0、製造業▲22.0、非製造業▲24.6
と、改善と悪化が混在する状況だが、一つ確かなことは、リーマンショック期よりマシにはなったが、長期間に亘りDIがマイナス値に沈んだままで、業績回復の糸口すら掴めていないということだろう。

我が国の経済構造が、国内の消費や投資を主体とする「内需大国」である以上、事業活動のメインスタジアムたる実体経済がこんなありさまでは、麻生氏が金融機関に向かって、企業の事業性を評価しろと息巻いても、肝心の企業が事業性を発揮しようがないではないか。

麻生氏のような世間知らずは、融資(=企業から見て借入金)を売上か何かと勘違いしていないか?

当然のことだが、融資を受けた企業は、融資元金に利息を加算した金額の返済義務を負っており、事業活動を通じて「元金+利息+収益」を確保せねばならない。

問題なのは、実体経済の市場環境が、「元金+利息+収益」を稼ぎ出せるだけのポテンシャルを有しているか、ということだ。

そのポテンシャルを拡大させる役目を担うのが、政府や官公庁、日銀といった公的セクターであり、適正な経済政策による実体経済の漸増的な拡大と活性化こそ、公的セクターたる者の最大の務めだろう。

当然だが、融資は補助金ではない。
企業の事業活動で得た収益を原資とする債務である。

事業性を評価云々と言ったところで、事業性を担保する実体経済がヨレヨレでは、元も子もないではないか?

世の中には、「日本の潜在成長率は1%未満だから、これ以上の成長はムリ」、「大卒・高卒ともに内定率が上がっているから何の問題もない」、「雇用指数は改善しているぞ」などと、日本経済の真のポテンシャルや人口動態・雇用慣習の変化を無視したシロウト論(=自称「本物の知識(冷笑)」)が横行しているが、麻生氏の見当違いな指摘も、巷に蔓延るシロウト論の域を出ていない。

彼も、金融機関にグダグダ文句を垂れる暇があるのなら、自らの旧バージョンの発想を早急に改め、財政・経済担当の重要閣僚として、我が国の実体経済活性化に向けた具体的なアクションを起こすべきだ。

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