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2017年7月24日 (月)

「安い◯◯は消費者の利益」というまやかし

『豪州産牛肉の輸入単価、米国産上回る 干ばつで生産減』(6/7 日経新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO17433320X00C17A6QM8000/
「オーストラリア産牛肉の価格が米国産を上回る逆転現象が起きている。干ばつの影響で飼育頭数が減少し、現地価格の上昇が続いている。飼養頭数の減少に伴い輸出余力も低下しており、豪州産のシェアも低下している。
 貿易統計によると、2017年1~4月の豪州産牛肉(冷凍と冷蔵、関税除く)の輸入単価は1キロ約607円。米国産は同601円で、豪州産が1%上回っている。5年前の豪州産の価格は399円で、508円の米国産と比べて21%安だった。(略)
17年1~4月の関税適用後の価格は単純計算で米国産が1キロ約832円、豪州産が772円と米国産が高くなるが、適用後でも価格差は7%まで縮小している。(略)
価格差逆転を招いた要因が、豪州で13年から15年前半まで続いた干ばつだ。豪州産は牧草肥育が全体の3分の2程度を占めるとされる。(略)
 豪州の牛は生まれてから出荷まで12~36カ月かかるといい、市場に出回る牛肉の減少が価格上昇を招いた。(略)」

上記ニュースの要点は、豪州産と米国産の牛肉輸入価格の逆転ではなく、2016年時点で我が国の牛肉輸入の9割以上を占める豪州(54%)&米国(38%)の2大産地からの牛肉輸入価格が相当なスピードで上昇している点にある。

豪州や米国で頻発する干ばつ、中国による13年ぶりの米国産牛肉輸入再開がもたらす需給の逼迫などの要因もあり、米国産牛肉はボトム期(98年)と比較してドルベースで約2.5倍、豪州産は日経記事のとおり5年前と比べて約1.5倍と高騰している。

我が国の牛肉自給率は重量ベースで40%程度で推移し、生産量上位の北海道、鹿児島をはじめ、生産地が全国に広く分布している観点から、地方創生や震災復興を支える産業の一つとして、また、世界に誇る和食文化の中核をなす産品として、将来に亘って保護育成を図るべき分野であろう。

呑気なTPP推進論者は「関税引き下げで海外産の安い牛肉が大量に入ってくるのは消費者の利益だ」と大見得を切っていたが、国産牛肉(和牛で約2,400円/㎏、乳牛で約1,100円/㎏)も価格が上がってはいるものの、輸入牛肉との価格差は縮みつつある。

特に問題なのは、肉牛飼育に重大な影響をもたらす「干ばつ」が、豪州・米国両国で常態化しつつあることだ。

豪州は、20世紀以降、5年に一度は干ばつに見舞われていると言われ、ここ最近でも2006~2007年、2013年~2015年にかけて、雨不足により、小麦・大麦の収量が40%も落ちるほどの深刻な干ばつに見舞われている。

また、米国でも、カリフォルニア州で2011年冬季から干ばつが4年連続し、2014年以降も深刻化している。
同州ではアウトドア水利用(芝生涵養、園芸)を制限するよう指示が出されるほどで、今年に入って南西部でも高温による干ばつが報告されている。

野放図で暴力的な自由貿易推進論者は、「A国からモノが買えないなら、B国から安く買えばよいではないか」と幼稚な意見を吐くが、現実には生産国が限定される品目も多々あり、気軽に代打を送れるわけではない。
しかも、肉牛の肥育には1~3年も掛かるから、工業製品とは違い、一旦肥育頭数が落ち込むと、その影響は数年にも及ぶ。

日経記事では、「17年の牛の飼養頭数は前年比2%増の2674万頭と4年ぶりの増加見通し」なんて書いてあるが、どうなるか分かったものではない。

“カネさえ積めば何でも買える”(そもそも、カネを過度に積むこと自体、自由貿易のメリットにならないのだが…)と勘違いしてるバカ者が、行き過ぎた自由貿易と国内産業の保護撤廃を叫ぶが、こと主要食糧の確保という観点から、国民の胃袋を“気候変動”という人智の及ばぬリスクに晒すわけにはいかないのだ。

筆者は地球温暖化論を否定する立場の者だが、温暖化云々の影響かどうかは別として、豪州や米国だけでなく、タイをはじめエチオピア、パプアニューギニア、インド、モロッコ、ハワイ、南アフリカ、スワジランド、ミャンマー、ベトナム、フィリピン、パラオ、ブラジル、ベネズエラ、ニカラグア等々、世界各地で深刻な干ばつに見舞われており、穀物や家畜の生産は、まさにタイトロープの上を渡っていると言ってよい。

TPP推進論者の幼稚な思い込みに付き合わされ、「いきなり!ステーキや吉野家の牛丼が安く食えるぞ‼」と意気込むのは勝手だが、このままでは380円の牛丼並盛が500円に値上げされる日も遠くはあるまい。

恐らくTPP推進論者は、「牛肉が高いなら、豚や鳥を食べればいいじゃないか」と、マリー・アントワネットみたいなことを言うだろうが、豚肉・鳥肉・ラム肉だけでなく、不漁続きの鮮魚類も価格が上がっており、“国民総菜食主義者”になるしかないだろう。

我が国は、これまでも十二分に開かれた自由貿易体制の下で、海外と適切な貿易体制を構築し、輸出入ともに世界第4位(ドルベース)という世界屈指の貿易大国の地位を築いてきた実績があり、これ以上の過度な開放や譲歩は不要である。
いまは、20年以上ものデフレ不況で疲弊した需要サイドの治癒や、高齢化に悩む国内生産農家の保護育成に注力すべき時期だろう。

バカげた自由貿易を錦の御旗に国内産業を破壊し尽くした後で、海外からぼったくりまがいの請求書を押し付けられても、もはや何の抵抗もできなくなることを、国民は肝に銘じるべきだ。

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