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2017年7月27日 (木)

開業率の高さが生産性を高めるという妄想

経済に関するデマ話や性質の悪い思い込みは多々あるが、「起業家主導の経済活性化論」も、その一つだろう。

『高齢化で起業家が減る日本の深刻な「悪循環」~成長が見込める企業が生まれない国の顛末~』(7/16 東洋経済ONLINE リチャード・カッツ/特約記者)
http://toyokeizai.net/articles/-/179774?
「経済成長を刺激する革新的企業が大量に生まれなければ、日本は増え続ける高齢者を養っていけない。だが、まさに少子高齢化が、起業の障害になっている。具体的には、係長や課長といった管理職を経験したことのある28〜43歳の若者が減っているのである。低成長のせいで企業も管理職となるチャンスを若者に十分提供できておらず、起業家予備軍が減少してきている。(略)
どの先進国にも当てはまることだが、生産性を伸ばすカギは、生産性の高い新事業を育むことだ。
米国では、過去20年間で35万社を超す会社が新たに生まれ、設立当初は10人程度だったとみられる平均従業員数は70人に増加した。2000万人の雇用を創り出した計算だ。日本ではすさまじく大量の中小企業が生まれているが、そのほとんどが成長することなく中小企業にとどまっている。(略)」

カッツ氏のコラム内容は起業家の役割を過大評価した“妄想”の類と言えるが、特に、「生産性を伸ばすカギは、生産性の高い新事業を育むことだ」の記述部分は、まったく答えになっていない。
「革新的かつ魅力的なモノやサービスさえ創れば、必ず買い手がつくはず」という初歩的な思い込みは、経済論を語るうえで厄介な障害になる。

これでは、「売上や収益伸長のカギは、利益率の高い商品を育てることだ」という精神論の域を出ず、“自社に高い利益率をもたらす顧客が、いったい、何処にいるのか”さっぱり分からない。

「生産性の高い新事業」という言葉には、“高い利益率を誇る新事業”という結論だけがビルドインされているが、そもそも、デフレ不況下の競合激化で需要不足に悩む状況で、高い利益率を獲得できる事業なんて、そう簡単に創造できるものではない。

「高得点を採るには、高得点を採れる勉強をすべきだ」なんてドヤ顔で説教されても、「だから、その高得点を採る勉強法を具体的に教えろよ‼(# ゚Д゚)」と反発を喰らうだけだ。

また、カッツ氏は、日本は欧米諸国と比較して開業率が低すぎるから、何時まで経っても経済成長できないんだと言う文脈で偉そうに語っているが、開業率の高さは高度経済成長をもたらす起爆剤にはなり得るわけじゃない。

日本の開業率(企業単位)は2012~2014年で4.6%と、欧米の水準(8~15%程度)と比べて著しく低く、こうした「アニマルスピリッツの不足」こそが経済停滞の原因だと指摘する識者が多く、おまけに、偉そうに御高説を垂れる本人は、たいがい、官僚や学者、大手企業役員、エコノミスト等という安定した地位に胡坐をかいたまま、というケースが散見される。

しかし、我が国の開業率は高度成長期でさえ5.9%ほどに甘んじており、バブル期でも3.5%と、今より低かったくらいだ。
また、起業のロールモデルとも言えるアメリカの開業率は、1980年代以降、12~15%のレンジ内でほぼ横ばいに推移してきたが、その間の名目GDPは6.7倍にも拡大しており、開業率の水準がGDPを先導するかのような言説には、何の根拠もないことがよく判る。

開業→廃業という新陳代謝の中で、革新的な技術やサービスが想像されるという意見を頭ごなしに否定するつもりはないが、開業率の高さが生産性の高さを決めるかのような“サプライサイド神格化論”は、単なる妄想や幻想に過ぎず意味がない。

また、カッツ氏は、アメリカの例(起業時の従業員数10名→70名規模に拡大)を引き合いに出して、起業後の成長加速が順調だと主張するが、アメリカの場合、グーグルやアップルみたいな一部のお化け企業が平均値を嵩上げしていることを考慮すれば、大半が中小企業のまま一生を終えると言っても過言ではない。
また、廃業率の方も常に10%前後をキープしており、健康状態に喩えれば“入退院を繰り返している状態”と言えるのではないか。

最後に、カッツ氏は、高齢化に伴う歪な労働人口構成のせいで、日本の若者は若くして管理職に就き企業運営スキルを磨く機会に恵まれず、それが起業予備軍たる人材を減らし、せっかく起業してもほとんどが成長できず中小企業のままだと指摘している。

この点について、前半部分は筆者もおおむね同意できるが、起業後の中小零細企業が成長できぬ要因を起業家の経営スキルや人脈不足のせいにして片付けるのではなく、マクロ経済環境が過酷すぎることにもっと留意すべきだろう。

日本の全産業ベースの付加価値額に占める中小企業の割合は50%程度とされるが、経済成長率の高かった1975~1985年代の58~59%という水準と比べると、ジリジリ縮小している感を否めない。
しかも、企業の研究開発費投資額は、2008年時点で大企業の15兆円に対して、企業数の99.7%を占める中小企業全体でも1兆円にすら届かないといったありさまでは、付加価値を高めようがない。

我が国でグーグルやアップル、アマゾンのような夢の起業を当て込み、愚痴をこぼしても何も始まらない。
開業率だけを捉えて一喜一憂するのではなく、マクロ経済全体を成長軌道に乗せて実体経済を活性化させ、既存企業と起業家がWin-Winの関係の下で互いに成長できるような環境を創造することこそが重要なのだ。

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