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2017年9月 7日 (木)

需要あってのAI投資

『輸出競争力むしばむ「日本病」、リスク取らない経営者』(8/16 ロイターコラム 田巻一彦)
https://jp.reuters.com/article/column-idJPKCN1AW0DL?sp=true

「日本の輸出競争力に陰りが出ている。アベノミクス効果で円安基調が定着しても、輸出額は過去のピークを下回ったままで、経常黒字に占める貿易黒字の割合は20%程度にとどまっている。
この背景にあるのは、日本企業の経営者を覆っている「リスクを取らない」心理にあると指摘したい。(略)
最近の韓国では、新政権の意図した最低賃金の引き上げによって、人件費カットの目的で機械化や自動化の動きが急速に進展しているという。
日本では人手不足という要因で、同じように人件費の高騰が企業業績に影響を及ぼすようになっているが、韓国の一部でみられるような「無人コンビニ」の実証実験などの動きは、まだ出てきていない。(略)
行動しない理由を挙げて、投資や賃上げなどに動かないリーダーが増える現象を「日本病」と名付けたい。(略)
企業の利益剰余金が過去最高の390兆円まで積み上がっているのは、企業経営者の「無策」が露呈した結果だろう。
そこで提案だが、今後の生産性上昇の行方に大きな影響を与える人工知能(AI)を業務の改善に使った企業への優遇策を打ち出し、そこを起点に設備投資の波を作り出すべきだと考える。(略)」

コラム執筆者の田巻氏は、リスクを嫌い行動も起こさぬ経営者の消極性を日本病だと指摘し、それこそ、日本企業の輸出額停滞の真因だと批判している。
そのうえで、政府によるAI投資優遇策が必要と強調し、生産性向上への期待が大きいAI投資を促すことが設備投資活性化につながるはずと力説する。

事実、日本企業は400兆円近い利益を貯め込み、一向に賃上げや投資に廻そうとしない。

企業が賃上げを忌避してきた事実は、いまさら説明するまでもないが、第一生命経済研究所のリポート「40歳代の賃金不況~中堅所得層が薄くなる原因~」によると、団塊世代に次ぐ人口ボリュームゾーンの40歳代の勤労者は、企業から固定費カットの標的として狙い撃ちされ、ベースアップの停止や成果主義・年俸制導入といった賃金カーブの低位化による人件費圧縮が進められたことがよく解る。
【参照先】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2017/kuma170803ET.pdf

上記リポートを見ると、年齢階級別の所定内給与を2006年~2016年の10年間で比較すると、40~44歳代で月304千円/▲8.1%、45~49歳代で324千円/▲4.5%と大幅に減少している。(因みに35~39歳代280千円/▲6.5%、50~54歳代337千円/▲1.6%と、前後の世代も減少している)

さらに、1996年を100とする指数変化において、2016年の1人当たり労働生産性102.1に対して、1人当たり人件費は96.1でしかないことを図表で示し、「リーマンショック後、生産性は急上昇したが、1人当たり人件費はそれに追い付いていない」と指摘している。

こうした事実は、企業が労働分配率を抑え続けてきた軌跡を説明するものであり、働き盛りで生活資金も必要な層に十分な所得が行き渡っていないどころか、逆に減らされたのだから堪ったものではない。

冒頭のコラムは、そんな日本企業の守銭奴的態度を強く批判しており、その部分に関しては筆者も同意する。
そもそも、企業なんてものは、組織に属する労働者の食い扶持を稼ぐために存在するのだから、収益の果実を真っ先に分配すべきは労働者のはずで、収益を貯め込むだけで賃金として分配しないなら、企業としての存在価値が無い。

一方、コラムの締め括りにある“日本病の蔓延を打破する特効薬はAI投資だ”との田巻氏の主張には素直に頷けない。

氏は、NTTドコモや東京無線、富士通が今年3月までに行ったAIを活用したタクシーの配車ルートの実証実験で、乗車ニーズの予測に関し相当の効果が出たと持ち上げるが、AI投資を労働コストカット策としてしか考えていないのなら、生産性向上なんて儚い夢に終わるだろう。

人手不足とやらを言い訳にしてAI投資を進め、雇用抑制と賃金圧縮を続けて行けば、やがて所得不足により需要がシュリンクしてしまい、いくらAIがタクシーの最適な配車ルートを提示しても、肝心の乗客がゼロという皮肉な事態が起きかねない。

AIは膨大なシミュレートやマーケット解析はできても、消費者や需要家の財布にお金を入れることまではできない。

AI投資は、情報投資そのものの拡大や、それを活用するサプライサイドの高度化を後押しする効果は見込めるが、肝心なのは、より高度なステージへと飛躍を遂げたサプライサイドの供給能力に見合うだけの需要が果たして存在するのか、という点なのだ。

雇用を維持拡大し、労働分配率を高めたうえで所得拡大による消費力の増強を図りながら、AI投資による生産やサービスの効率化や高度化を目指すのなら問題はない。

しかし、AIに期待する役割が、人減らしや賃金カットのための幼稚な抗弁に過ぎないなら、終いにはAIは無用の長物と化し、AIが失業する無様な世の中にしかなるまい。

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